パルクールコラム:スキルコンペをやろう

2018年の秋ごろ、名古屋のパルクール祭3(https://www.nagoyaparkour.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E7%A5%AD/)に参加してきました。
「パルクール祭」は名古屋の連中が企画・運営しているイベントで、大会形式で色々競技をやったり、みんなでワイワイ練習したり、その名の通りお祭り的なイベントです。
参加者は老若男女問わず、全国から幅広い層が足を運んでいます(どちらかというとキッズが多いイメージですかね?)。
やっぱこういう大っきいイベントの良い所って、普段散り散りになってる仲間が一堂に会する場として機能するところなんですよね。
久々会えた顔とか結構いて、楽しかったです。
今回は、競技内容としては「フリースタイル」「スピードラン」「スキルコンペ」の3つが用意されていて、自分はスピードとスキルに出場するつもりで遊びに行きました。
が、残念ながら自由練習の時間に初歩的なミスが原因で怪我をしてしまい、スピードランも棄権して、実質ほとんど見学でした。笑
でも、皆さんのフォローあってスキルコンペは何とか出場できたし、楽しかったのでオールOKです!笑(手当してくれたリカさん本当にありがとうございました汗)。

このエントリーについてですが、「スキルコンペって、気合や勢いでゴリ押ししたりラッキーパンチが通用しないから、本当の実力を試せる優れたゲーム形式だよね」という話です。
実際に自分でスキルコンペに参加してみて、また普段の練習でもスキルコンペを模したゲームをやってきた中で、体感したことを書いていきます。
「大会で無茶やギャンブルをしてまで勝つのが良いパルクールなの?」「本当の意味で”上手い”ってどういうこと?」みたいな、パルクール競技の核心部分にも言及していきます(と、僕は思っています!笑)。
この記事は本当に色んな人に読んでほしいです、マジで!

スキルコンペってなんなん?


まず「スキルコンペって何をするの?」と疑問にお思いの方のために、概要を簡単に説明しておきます。
ルールとしては、大会側が用意した課題(移動系のものが多いですね)を制限手数内ないし制限時間内にクリアしていく形が多いです。
後述しますが、海外のパルクール施設で行われる大規模なイベントでのスキルコンペは「トライ回数何手以内にこの課題をクリアする」みたいなルールで競われる事が多いです。
今回のパル祭3のスキルコンペは「大会側が用意した5つの課題をそれぞれ1発勝負で、参加者が順繰りにトライしていくサドンデス」というルールでした。
具体的には、 

  1. ダッシュ→ダブルコングの流れを詰まらずに
  2. セーフティで飛ばして規定ラインを越える
  3. ラシェプレシ(スティック)
  4. レールプライオ(スティック)
  5. モンキーからのレールプライオ(スティック)

の5つでした(詳しくは動画見て下さい!)。
どれも飛距離やハードさは抑えめで、難易度としては簡単なものが多かったです。
「特定の課題をケガをしないように攻略していく」という部分では、普段の練習とかなり似通ったところがあります。

一般的にスキルコンペはパワーや勢いだけでなく、メンタル的なマネジメントや、様々な動きを満遍なくこなせるバランスの良さ、癖のあるセッティングにも対応できる柔軟性、リスクを取るべきタイミングの見極めなど、気合いやフィジカル頼みの通り一遍なプレイヤーでは歯が立たないよう(ある種健全に)高難度化が図られている形式です。
総合的な「地力」を元手に比べ合うので、プレイヤーの普段の練習への取り組み方がそのまま成績に反映されるような形になってきます(今回のパル祭の課題はどれも易しめの単発モノばかりだったんで、難度というか敷居は低かったですが……)。
また、今回のパル祭で運営サイドもチラッと言ってましたが、「スキルコンペの課題を通して、普段やってないことを皆んなにやってもらいたい」という食わず嫌い矯正装置として見ても、とても意義のあるゲームだと思います。

NAPCはすごい


僕がスキルコンペとして現時点で割と理想的だなと思っているのが、2018年にバンクーバーで行われたNAPC(North American Parkour Championships)という大会でのゲームです(動画↑)。
NAPCのスキルコンペは2日間に渡っての2部構成になっており、1日目に「16個の課題を1時間以内にクリアする」という形で予選が行われ、2日目の本戦では「5個の課題を2分以内にクリアする」ラウンド1と、「3個の課題を合計5手以内でクリアする」ラウンド2があったようです。
名うてのトッププレイヤーたちが鬼のようなスケールの課題を四苦八苦しながら攻略していく様が、storrorのチャンネルからYouTubeに上がっています。
トライの様子が普段の練習とリンクしたリアルなものに感じられて、とても見応えがあります。

storrorからカラム・パウエルも出場したみたいですが、1日目の1h16個の課題で変わった角度のラシェとか指だけのダイノに苦戦して、予選で落ちてました。
そう、膂力で鳴らすあのカラムが予選落ちだった点に、このスキルコンペという形式の妙味があります
カラムと言えば、言わずと知れた移動系のトッププレイヤーの一人です。
世界的にも有名ですし、パワー抜群、高所の経験値や実績も数知れず、パルクール界きっての名選手です。
にも関わらず、そんなカラムが予選で敗退してしまったことからも、スキルコンペでは定数的には測りにくい力が要求されるということが分かります(もちろん彼の場合、文字通り命がけのルーフトップで培ったある種の特別に並外れたスキルがあるので、こういう”安全”なゲームとはそもそも水が合わないのかもしれませんが)。

予選の16の課題では、比較的大人しいもの(と言っても、距離が抑えられているだけで動き自体は結構いやらしいものが多い)が出題されています。
ここではマッシブなものはあまり見られず、ラシェからのポーリオや90°方向転換するラシェ、”ポール踏切(点で踏み切るってことですね)”からのレールプレシなど、テクニカルなものが頻出です。
不器用な人や応用力が弱い人はここで落とされちゃいますね。
本戦のラウンド1では180系やジャンプ系を中心に、徐々にマッシブさが増してきます。
ラウンド2ではいよいよ課題の難度がヤバくなってきて、一個成功させるだけでもクソ大変な動きを何個も繋げたラインが出題されてます(ラウンド1は動画の16:00頃、ラウンド2は18:30頃からです)。
ラウンド2に駒を進めたのは5人。

最初の人はかなり攻めてますが、リカバリーの取り方が良いですね(最初のでスネやってるけど)。
次のダリル・スティングレーですが、1つ目の課題の味見の仕方が上手いです。
本来フチ無し180の所を一旦フチありで余裕をもって全体を把握、2撃目で綺麗に決めてきます。
2つ目もレールプレシまでで止めて様子を見てから次でラシェを入れて両足を当てに来ますが、残弾が尽きたのかリタイアです。作戦としては王道でクレバーでした。
3人目はストームのジョー・ヘンドー。彼は体格からも想像できるように、どちらかというとポテンシャルで飛ばしているタイプと見ていましたが、やはりここでもその感じが出ていますね。
動きに少しムラがあるのと、誰が見ても分かりますが、ラシェに慣れてないみたいですね。
4人目は同じくストームから、ティム・チャンピオン。一つ目のラインが少し苦しそうですが、彼の実力からいくと、もっと余裕で出来るっぽいです。2個目の課題を5手目でクリア。フレーム(骨格)のサイズを感じさせない精緻で行き届いたテクニックは、いつ見ても素晴らしいです。
トリはアシガルのアンディ・ウォール。直前のティムのスコアからかなりプレッシャーがかかっている状況ですが、そこからの一撃クリアは痺れますね。しかも今までで一番上手い。
メンタル面もすごいですが、それを裏打ちするテクニックも桁違いであることが伺えます。
2つ目のラインも、動きを一つづつ分けて考えても、そのどれもが5人の中で一番上手いと思います。
結果的に2つ目はクリアならずでティムが優勝しましたが、アンディの技術はどれも刮目に値するものだと思います。

NAPCスキルコンペは、課題の内容が良かったです。
予選に少しトリッキーなものを持ってくることで、フィジカルのみに依存したぶっ飛ばし系の人や、食わず嫌いが多くて対応できないセッティングが沢山ある人、気合と勢いで無理矢理乗り切ってきたタイプの人を篩い落とすことができます。
本戦のラウンド2(決勝)では、総合的な地力を測るためにある程度の長物課題をぶつけてコーディネーション能力を試すことで、コンペティションの空間にリアルなパルクールを上手く再現していました。

スキルコンペで重要なのは「過程」

このように、失敗も含めた課題攻略までの「過程」を問われる点が、スキルコンペのミソです。
何手までは様子見に留まるのか?
どのタイミングで勝負を掛けるのか?
自分の得手不得手や残弾数も考慮して、どこまでリスクを取るべきか?
気合いや勢いだけで動きをねじ伏せるというのは、言い換えると「過程をすっ飛ばす」ということです。
普段は皆んなとワイワイ練習してる分には勝ち負けとかもないので、そういう表面的なスタンスでも楽しければ何でもOKだと思います。
でも、こういう客観的な指標に照らし合わせて力試しをする場では、厳しいものがありますね。

また、「決められた回数で」というのもポイントです。
チャンスが1回きりの場合は運の要素がかなり大きくなってくるので、「いつもだったらあの人こんなの失敗しないのに!」という簡単な課題でも有力株が脱落していったりもします(パル祭のサドンデス形式もこの意味ではちょっと寂しい部分がありましたね、時間押してたんで仕方ないですが)。
一発勝負だと、どうしても実力が測りにくい。
チャンスが何回か保証されていると作戦を立てる余地が生まれるので、今回のカラムの様にハイレベルなプレイヤーが脱落してしまっても「練習してないのか知らんけど、この人はこのセッティングは苦手なんだな」と、その人の脱落に対して納得がいきますよね。
NAPCスキルコンペの決勝ラウンドは「3つの課題を合計5手以内でクリアする」というルールですが、何回かチャンスが与えられていて作戦も自分の裁量で決められる仕組になっていると、地力というか実力を測りやすくなってきます(少なくとも、マグレが通用しなくなるという所にこの設定の意義があります)。

パルクールをやっていてもパルクール競技には強くならない!?

繰り返しますが、スキルコンペの良いところは結果だけでなく過程も問われる点です。
スピードラン(タイムアタック)やチェイスタグ(パルクール鬼ごっこ)だと、ゲームの目的は「短いタイム」「相手に触ること、触られないこと」です。
要は「タイムが早ければ何でもいい」し、「相手に触れられれば何でもいい」、「逃げ切れれば何でもいい」ということです(もちろん、ルールを逸脱しない、怪我しないとかは大前提です)。
そういう限定的なルールを第一義に据えると、往々にして、パルクール的過程をすっ飛ばすことが結果に繋がる有効策である、という倒錯が起こるんですね。
他に多少のサブルールを附属させるにしてもです(チェックポイントを順番通り通過しないといけない、とか)。
安全面を多少削ってでも大きい動きでタイムやリーチを稼いだりすることが、結果に繋がる正義になってくるんですね。
スピードランは数字が全てなので、動きが雑で危なっかしくてもポテンシャルである程度ゴリ押しできちゃいますし、最後はタイムが速い人が偉い。
チェイスタグにもその感があることは否めません(それと、こっちは対人要素が絡んでくる分”スポーツ”として考えなきゃいけないポイントが増える)。

スピードランには、色々な意味での「過程」がありません。
パルクールの腕前はあいつより自分の方が上だとか、足が速いだけで動きは雑じゃないかとか、そういうのは全部関係ありません。
タイムの優れている人が正義です。
、「タイムの優れている人が正義」を地でいくなら、スピードランではパルクールよりも消防士や自衛隊員の方が圧倒的に強いです。
他のスポーツ(陸上やサッカー等、敏捷性と体力が要求されるもの。アメフトなんかもヤバそう)で活躍している運動選手に少しパルクールの基本テクニックを教え込めば、それだけでパルクール屋には充分な脅威になるでしょう(下手したら余裕で負ける)。
そういう人がもし台頭してきたとしたら(いや、しないと思いますけどね。仮にです)、「超速かったけど、結構危なかったよね」とか「すごいタイムだけど、パルクール的に上手いかどうかって言われると……」みたいな、「パルクールのセオリーを無視した方がパルクール競技に強くなる」という奇妙な捻じれが起こってきます。
(もちろん、スピードが技術に担保された、本末転倒になっていない正統派スピードタイプの人もいます。代表格としてはphoskyがそうだし、今回のパル祭のutaのランもその意味で素晴らしかった)。

今はまだそこまでの極端な捻じれは無いと思いますが、全く健全かと言われると微妙です。
僕自身もスピードランに出たことがありますが、普段練習している「効率の良い移動」なんて結局絵に描いた餅じゃないかという気持ちにならざるを得なかった。
ちまちまヴォルトなんてせずに、一気にストライドで駆け抜けられる許容範囲が一番広い奴が強い。
そのために脚力とスタミナを強化するのが一番良い。
自分で経験してみて、実際そういうことになっちゃったんですよね(FISE2019サウジアラビア戦のスピードランで、サルガドやジョー・ヘンドーやフォスキーを抑えてウクライナのエリックが優勝したと聞いた時は、本当にたまげましたよ)。
で、それだと移動系の人からしたら「俺らが普段がんばってることってなんなの?」という身も蓋もなさが出てくるというか、パルクールをベースにした競技でパルクール屋は活躍できないの?という、ちょっとコレジャナイ感が出てきてしまう。
かねがね思っていることですが、僕はパルクールをウエイトリフティングの重量で決まるようなゲームにしたくないんですね。
それはあんまり面白くないし、”purist”がやり玉に挙げる「そもそもパルクールとは……」みたいな話にもなってくるでしょう(まぁ僕はそっちはどうでもいいんですが笑)。

スピードランやチェイスタグなどの形式を否定するわけではありませんが(上で講釈を垂れましたが、実際やってみるとめっちゃ楽しいですよ)、「一番リアルなパルクールっぽいパルクール・ゲームってなんだろう」という題目にマッチするのは、現時点で開催されている大会やイベントでのそれでは、スキルコンペという形式なんじゃないかなと思います。
繰り返しますが、スピードランやチェイスタグを否定しているわけではありません。
ゲーム内容、セッティングの問題です。
セッティングやルールがイマイチだとスキルコンペでもつまらなくなるし、逆にスピードランやチェイスタグをもっと真っ当(この言い方はちょっと変ですが……)にするためのルール設定の仕方があると思います。
パッと思いついたもので言うと、スピードランにアームジャンプからのクライムアップをマストで入れる、とかですね。
クライムアップは腕力や運動神経でゴリ押しできない(してもモタついてしまう)動きなので、「上手い=速い」という健全な図式を成り立たせやすくなる。

他にも色々策はあると思いますが、僕はあくまでも、パルクールをベースにしたゲームから「パルクールっぽさ」が全然取り取り去られてしまうことが無ければいいなと思います。